マイクロ・デポ株式会社”公式ウェブサイト”「マセラティに乗りませんか・・・」

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2014年3月 5日 (水)

”文豪”Rたろう様の、私小説(?:笑)まとめサイト:①

 はい、こんばんは!実のところ、先月に引き続き今月号にもカーグラフィック誌にはマイクロ・デポの広告が掲載されているモンで、まさにソレを御覧になり、本日初めてこのブログをお訪ね頂いた方々には、いきなり、「いったいココは何なんだろう?」と思われるかも知れませんが、そういうところです(いや、チガウでしょ!:泣笑)。

 たいへん申し訳ありませんが、先月の半ばあたりまでの過去20ページ分くらいを順に遡る様に目を通して頂きますと、「ああ、そういうコトなんだぁー」と、ちょっと”このブログのココロ”の様なモノが御得心頂けると思います。ひとたびツボ(”どツボ”かも:笑)にハマれば毎日の閲覧とコメント書きが日課になってしまうと云うところが、自動車屋のブログとして他に類例少なきところでありんす。

 で、本日は、やっぱりマセラティもフェラーリも登場しない(泣)ネタ。数日前に御約束しておりました、”大分の文豪”こと「りゅたろう」先生御執筆の”あのページ”コメント欄内小説、そのまとめをしておこうと思います。只今継続中の「一番マジメなヤツ(他にもいっぱいあるからな:笑)」は、そもそも以下の様な導入(前フリ)コメントから始まってしまいました。

 まずは、当該コメント欄の再掲をば。

そのころ…悪Rたろう先生はラヂオ局のコネで取ったもらったモモクロのライブでエビぞりジャンプをしていた。何度目かの着地後、彼は足の感覚がなくなっていることに気づいた。

そのころ…ダコはベトナム製ビールもどきで悪酔いしていた。彼の脳裏には水のないプールが果てしなく寒々と広がっていた。

そのころ…匿名希望・仙台在住のSMはおば専門ブルセラショップで60代以上限定お買い得コーナーでおパンツを買いあさっていた。あっsign03万引きしたsign03

そのころ…高級輸入車販売のラペロリポにいたニューハーフは、退社後新宿3丁目のショーパブでミニスカートをめくってモッコリをお客さんに見せつけていた。

そのころ…麻布チョー一流不動産屋の営業マンは、板橋で地元の高校生に袋叩きにあっていた。前歯2本折れたそうな。

そのころ…善練馬のhは顕微鏡でトリコモナス原虫を見ながらよだれを垂らしていた。

そのころ…エセックスの郊外カーショップ裏庭で、錆びだらけのほとんど鉄屑となっていた541Rは、そのまどろみの中に見たことのない東洋人がたびたび姿を現していた。彼女は彼こそが自身の救世主と信じるに至った。

・・・ココに、こうして些か唐突ながら序文と思しき文章が現れています。以下、本文を列記いたしますが、明らかなる誤字脱字、それから御本人様から御依頼のあった訂正箇所については、ワタシが気を利かせて(笑)なおしちゃいました。ところで、いつまでも「一番マジメなヤツ」と云うのもメンド臭くてイケません。大分の文豪先生には、ぜひ気の利いた「タイトル」と「章立て」を御願いしたいと思っております。実にその道のエキスパートである「いつかはシャマル」さん(バルケッタの件、電話を待ってるよ~←コメントを真に受けてマスけど:笑)が、ホントに上製本にしてくれるカモよ(でも、売れるの5部くらいかなぁ:笑)。

 では、ごゆるりと。

・・・

・・・

・・・

 ロンドンから東に60キロ、エセックス州チェルムズフォードは閑静なベットタウンである。
市の中心部から西に延びている国道414号線は、のどかな、何もない田園の中を貫いている。
 誰もが眠くなってしまうような平和なドライブを一時間ほど続けると、日本人には納屋か掘っ建て小屋にしか見えない建物が現れる。ちょっと目にとめてしまうのは、建物の周りにやたらと車が止めてあるからである。それもきれいな車ではなく、なんだかくたびれた車たちだ。
 裏に続く道にも、そして建物の裏には10台以上の錆びついた車たちが停められていた。
その中に元はクリーム色だったとおぼしきクーペがあった。タイヤはかろうじてついているが、車体は左に傾いている。ヘッドライトはない。フロントグリルにはぽっかりと空いた大きな空洞がある。

 そう、私は1959年にヨークシャーで生まれたジェンセン541Rよ。ボディは上品なクリーム色、ルーフはエンジ色に塗られて、そりゃみんながきれいだってほめてくれたわ。エンジンは大きくて、ブレーキもディスクよ。ハイウェイではどんな車にだって負けたことはないわ。オースチンやジャガーも私の素晴らしさには驚いていたのよ。
 そんな私は、ずっと一人の殿方に守られていたの。ステファンアンドリュース、それが彼の名前。毎週私を磨いてきれいにしてくれたものだわ。週末は国道をゆっくりと走る、彼と一緒にね。よく私に話しかけてくれていたのよ。
 「なんて速いんだ。素晴らしい」とか「このエンジンは本当にいい音だなぁ」とか。私はいつも嬉しくなって、彼が踏み込む以上にエンジンを回してあげたものよ。

 そんな彼が、ある日を境に私に乗ってくれなくなったの。そして私は薄暗い車庫の中に何ヶ月もじっとしていなくてはならなかったの。ある日、車庫の扉がいきなり開けられたの。もうまぶしっくて、私はしばらく何にも見えなかった。まぶしい光の中から現れたのは、ステファンじゃなくて彼の息子、スティーヴだった。スティーヴは黒いスーツを着ていた。私のドアを開けて、シートの埃を払ってイグニッションキィを差し込んだ。でも何か月もエンジンをかけてもらってなかったから、なかなかエンジンに火が入らなかったの。スティーヴは汚い言葉をつぶやき、何度もキィを回したわ。何度回したかしら、やっとかかったのだけど、すぐに止まるの。彼は最初チョークのことをすっかり忘れていたの。彼は汚い言葉を何度も言うのよ。ステファンは一度もそんなことを言ったりしなかったわ。やっと彼はチョークに気づいて、思いっきり引っ張った。取れてしまいそうだったわ。エンジンが暖まって動かせるようになると、彼は私を玄関まで進め、奥さんと二人の娘たちを呼んだわ。奥さんと娘さんは黒いワンピースを着ていた。ステファンはどこにもいなかった。私は嫌な予感がだんだんと膨らんでいくのをどうすることも出来なかった。だって、ステファンも何度かそんな黒いスーツを着て私に乗ったことがあったの。そしていつも悲しい場所に行っていた。そんな日は、ステファンは私に何も話しかけてはくれなかった。

 四人で国道を北に走り始めたんだけど、おちびちゃんたちのなんてうるさいこと。何度奥さんのジェニーが静かにしなさいって言っても、二人はそんなことお構いなしだったわ。
でも、スティーヴが言うと少しおとなしくなるのよ。
彼の運転はまだまだね。マニュアルミッションに慣れてないらしいの。ガソリンが古かったから、私はちょっと息苦しかった。でも、そんなことを差し引いてもステファンにはかなわないわね。

 そして、いよいよ嫌な予感が現実のものになってしまった。
私たちが車を止めたのは、郊外にある静かな墓地だった。何度かステファンと来たことがある場所よ。たくさんの人たちが集まっていた。誰の葬儀かはわからなかったけど、前にいたアングリアが教えてくれた。

 「よお、お前さんはステファンの541じゃないか」
 「あら、デヴィッドさんのアングリアね。今日は何の日なの?おかしいの、ステファンが私に乗ってくれなかったの」
 「そりゃお前さん、乗りたくっても乗れないさ」
 「えっ、どうしてなの?」
 「今日の主役はステファンってことさ」
 真っ暗な闇が突然私の前に広がり、私の胸は大きな悲しみで一杯になった。そんな…さようならも言ってないわ、どうしてなの?

 ドスンと強い衝撃を受けて我に返った。ダッシュボードを強く叩かれたらしい。
 「ああ、くそ!この車も古いからなぁ。全然うんともすんとも言わないぜ」
 「叩いたってかからないわよ。ほら、私にやらせて」
 「君がやったって同じさ」

 私のイグニッションキィは、ダッシュボードの中央にある。ジェニーがキィをひねった。すぐに私はエンジンに火を入れた。ジェニーが笑いながらくりっとしたきれいな瞳をスティーヴに向けた。スティーヴはかなり不機嫌そうだ。

 「親父もいなくなっちまったし、こんなボロ車すぐ売ってしまおうぜ」
 「あら、素敵な車じゃない、私は好きだわ」
 「いちいち暖めなきゃ走らねえし、エアコンはないし、ハンドルがやたらと重たいんだ」
まあ、頭にくる。私は強くエンジンを回した。
 「おっと、ほらね。すぐ調子が悪くなるんだ。日本車がいいんだよ」
 「あなたそれでも英国人なの?」
 「車は関係ないさ。ドイツ車だっていいんだぜ」
 「私はドイツ車だけは嫌だわ。私のおばあちゃんはメッサーシュミットに殺されたのよ」
 「別にメッサーシュミットが車を作ってるわけじゃないさ」

 私は、すいている国道を流れるように走った。この道をステファンさんと一緒によく走ったわ。その時の気持ち良さ、私は忘れない。
ステファンさんはラジオなんかかけない。いつも微笑みを浮かべて私のエキゾーストを聴いていた。
 「ああ、なんとも、なんともいい音だ」
そう小さくつぶやいていた。

 ステーヴは私を乱暴にガレージの中に入れた。それも頭から。風を感じられないじゃない!
 ガレージの扉を閉め、家族が遠ざかると、何の音もしなくなった。胸の中に繰り返し繰り返しステファンさんとの日々がよみがえってきた。水温が下がるにつれ、私の心も冷え切っていくようだった。とめどなく涙がこぼれた。ラヂエターに小さな穴が開いていたの。でも、私は泣いていたのよ。あんなに優しかったステファンさんがもういないなんて。
ステファンさんとはちゃんと話せているように感じたこと、一度や二度じゃないわ。いつか並んで止まったジャガー240にそう言ったら、ひどく馬鹿にされたっけ。
 「馬鹿なことを言うなよ。僕らは機械なんだよ。人間と話せるわけがないじゃないか」
 「でも、ステファンさんは私が感じていることがわかっているみたいなの。ちょっとお腹が痛いなぁ、って思っていたら、ステファンさんは私を止めてジャッキで上げたの。そして、ドライブシャフトを止めてるボルトが一個折れてるのを見つけたのよ」
 「偶然だよ、偶然。じゃなきゃ君がなんか変な音を出してたんじゃないかい?」
 「私だって気づかなかったのよ。何も変な音なんか出してないわ」
 「ふーん、そうかい」
 「お腹がすいたなぁ、って思った時もすぐにガソリンを入れてくれたの」
 「そりゃメーターが左端になってくれば入れるよ」
 「違うの、その時私のメーターは壊れてたのよ。スミスってすぐに壊れちゃうじゃない」
 「まあ、君の気のせいだよ。人間なんかに僕らのことがわかってたまるもんか」
 「そんなことないわ!ステファンさんはわかるの!」
 でもそのあと240は隣に止まったブリストル407にペコペコするのに忙しくって、私とはもう話してくれなかったわ。シートがビニールだからって、あんなにへりくだる必要があるのかしら?407も、ものすごく気取ってたわ。大きくて威張ってた。
でも、そのあと随分してから出会った407は気さくな方だったわ。私が最近雨が多くて嫌だなって言うと、君のボディはグラスファイバーだから錆びなくていい。僕なんか、ほら、ドアのヘリなんか錆びてきてんのさ、ってとても気取らない良い方だった。彼はステファンさんが私のことを本当にわかっている、心が通じ合ってるっていう話にも理解を示してくれたの。実は僕もそう思ったことがあるんだって言ってたわ。今の持ち主じゃなくて、前の持ち主とはそう感じたことがあるそうよ。
 「思うに、人間だって僕らみたいな機械に心から愛情を注いでくれる人っているのさ。そして、そういう人間は僕らが感じていることがきっとわかるんじゃないかと思うよ。あの人はわかってくれてたんだと思う」
 「まあ、そうなの。どうしてそんないい人と別れてしまったの?」
 「会社がつぶれてしまったのさ。仕方ないよ。僕らにはどうすることもできない。せいぜい売られていくらかのお金をその人に届くようにすることくらいしか出来ないのさ」
 「それは…それはとても残念だったわね」
 「つぶれそうなつらい時期だってあの人は僕に当たったりしなかったよ。いつも気遣って優しく運転してくれた。ほら、僕って乱暴に運転されるとすぐ壊れてしまうんだ。エンジンはV8で大きいんだけど、壊れやすいんだ」
 戻ってきた今の所有者は、ぼさぼさの髪で、あまりきれいとは言えないジャケットを着てたわ。いやらしい目私を見て、しばらく私の周りをまわったりしていた。あの人に後ろのルーフをなぜられた時は、本当にぞっとした。ふんっと言って、407に乗りこんで乱暴にドアを閉めた。ちらっと少し荒れた車内が見えた。
 「なっ、そういうわけだ。僕はちょっと恥ずかしいよ」
私が何も言えないでいると、407はパーキングを乱暴に出て行った。
 「元気でな、541。君がずっと今の所有者といられるといいな。そう願ってるよ!」

 随分と長い時間がたったような気がする。ステファンさんとの思い出をなぞり、なぞり疲れて眠り、また蘇ってきて、その繰り返しだった。
 次に扉が開けられた時、スティーヴのほかに聞きなれない声が聞こえていた。
 「ほら、きれいでしょう?親父が大事に乗っていたんです。距離だってびっくりするほど少ないんですよ。さあ、今エンジンをかけますね。ついこの間乗ったんですけど、どこも悪い所なんかありません。ちょっと待ってて下さい」
 私にキィを差し込み、右にひねった。一回、二回、三回目にちょっと長いクランクの後、スティーヴがアクセルをほんの少し踏むとあっけなくエンジンはかかり、彼はすかさずチョークレバーを引きだした。
 エキゾーストから勢いよく白煙が噴き出した。きっとかなりの時間私は眠っていたのね。勇ましいエキゾーストノートに見知らぬ男はうれしそうにほほ笑んだ。
フリッピングを何回か繰り返して、スティーヴは少しずつチョークレバーを戻していった。今日のスティーヴはどうしたのかしら?いつもはこんなじゃないのに。言葉だってもっと汚いわ。
 「いいですね、アンドリュースさん。きれいだし、エンジンも快調の様だ」
 「スティーヴと呼んで下さい。気に入っていただけましたか、キースさん。きっと気に入るはずだって言ったでしょ。私も本当に残念なんだけど、娘たちも大きくなるし、税金も馬鹿になりませんから」
 「わかりますよ、スティーヴさん。こういった車は、本当に必要としてる人のところに行くのがいいんです。ちょっと乗せていただいてもいいですか?」
 「ああ、どうぞ。乗って下さい。ここら辺は運転するのにとてもいいところですよ」
 「それじゃ」
 キースと呼ばれた男は私の中に大柄な身体を滑り込ませた。
 「欠品はないな」
 小さくつぶやいて、いろいろなスイッチやレバーを動かした。ルーカスのスイッチノブがちゃんとしていることを確かめると、満足そうな笑みを浮かべたわ。
ギアをバックに入れてそっとアクセルを踏んだ。驚いたわ、優しかった。大柄なのに重くなかった。ひとつひとつの動作が柔らかい。私をそっとガレージの外に出すと国道に連れだした。こんなに大事にされたのはステファンさんと走って以来だわ。
国道を少し走るとキースは深く私のアクセルを踏み込んだ。解き放たれた喜びに私は震えたわ。ガソリンを勢いよく飲みこみ、火をつけた。きっとスマウグの吐き出す炎にも負けない。
 今度はハンドル右に左に切り始めた。そして時々キュッとブレーキを踏んでる。こいつ、キースの奴は私を試してるのね。いいわ、見てらっしゃい、私はそんなもんじゃへこたれないわ。四輪共ディスクブレーキよ。市販車じゃ世界初なんだから。あなたこそシートベルトをなさったら?転がるわよ。これも世界初よ、ちゃんと四座にシートベルトを装備しているのは。
もういいのかしら、キースは鼻歌を歌いながら来た道を戻っていった。

 「スティーヴ、この541は素晴らしい。いやぁ、感心した。とても二十年以上前の車とは思えない」
 「キースさん、それでは…」
 「もちろん、うちで引き取らせてもらうよ」
 「ああ、ありがとうございます!」
 「それでだね…」
 二人は話しながら母屋の方に歩いて行ったけど、私は混乱していたわ。引き取る?どういう事なの?スティーヴの奴、私を売ろうとしてるの?他の車たちにはよくあることだって知ってるわ。でも、この私が売られるなんて!スティーヴ、気でも狂ったの?お父さんがなんて言うか…
 そう、お父さんのステファンはもういないのね。だから私は売られるのね。隣のお家にいたEタイプ、来た時には誇らしげで世の中のすべては自分の手の中にあるって顔してたわね。でも二年もたたないうちに売られることになって、積載車に乗せられる時、わざとブレーキをロックさせて抵抗してたっけ。あの時の怒り、悔しそうな顔、そして何もかもあきらめて目を閉じていた。私は家の前の道路から全部見てたわ。胸が詰まって何も言えなかった。しばらくは私のSUキャブもきれいにバルヴが開かなかった。
わかったわ、私たち車の宿命ね。もうこの家にはステファンはいないの。私は自分の運命を受け入れるわ。

 今日も蒸し暑いわね。私の自慢だったペリメーター型フレームも半分くらい錆びてるわ。サスなんかもう固まってるわね。身体が左に傾いているから、いっつも左側が痛いわ。
この裏庭(Backyard)に連れてこられてどのくらいたつのかしら?ここしばらくは新人さんは来ないわね。半分くらいはまだ少しは意識があるみたい。早い車は三カ月くらいかしら、完全に沈黙しちゃうわね。気配が完全になくなるの。死ぬの?死ぬってどういうことかしら?もし死んだら私はステファンさんのところに行けるのかしら?でも、人間は死ぬけど、私たち車は死ぬのかしら?

 最近、ずっと考えることが出来なくなったわ。とても眠い。夢を見るの。嫌な夢も見るし、ステファンさんとの幸せな夢も見るわ。一番嫌な夢はあの雨の日のことね。私の三人目の所有者、コージーは乱暴な人だった…雨が降っているのに隣に並んだアルピーヌにいいところを見せようとして、アクセルを思いっきり踏んだのよ。コージーは目立ちたがっていたわ、いっつも。私を選んだのも、他に滅多に見ない存在だという車屋の言う事を信じたせいだった。それまでの二人が私をあまり可愛がってくれなかったから、いろいろ悪いところがたくさんあった。余り早く走れなくなった私にコージーはいっつもイライラしていたわ。汚い言葉で私を怒るの。私は思っていたわ。ちゃんと見てくれる所に連れて行ってもらったら、まだまだ私はだれにも負けないわって。でもコージー、あの人は馬鹿ね。サスペンションがへたってしまって、踏ん張れない私のアクセルを雨の日に思いっきり踏むなんて。すぐに滑ったわよ。彼に修正できるもんですか。そのまま右側をぶつけ、左側をぶつけ、フレームの一部や左の足まわりも全部だめにしちゃった。でもちょっと彼がかわいそう。右の肩が粉々になったはずよ。そして私はここに連れてこられたの…ああ、この夢は見たくないなぁ。見たあとはずっと身体中が痛い。

 あら、ステファンさんの夢に、この頃見たことない人が出てくるわね。今日はステファンさんと話していたわ。夢の片隅に出てきてただけだったのに。東洋人?いつかエセックスの街で見かけたことがあるわ。あれは中国人だとステファンさんが言ってた。でも、雰囲気が全然違う。だって夢の中の人は、いつも恥ずかしそうにしてる。それにちゃんとした品のいいジャケットを着てるわ。昔の人みたい。死んでる人かしら?

 今日はその人に、まだきれいだったルーフをなぜ(撫で)られた。なんだかとってもうっとりとした。気持ち良かったわ。だって優しくなぜてくれたんだもの。そんなふうにされたのって、もうずいぶん昔のことよ。私に何か話していたけど、私にはよくわからなかった。ステファンさんと話す時は英語みたいな、なんかよくわからないけど。でも、とても優しそうに話しかけてきたのよ。あっ、今日はステファンさんはいなかったわ。いい夢の時は必ず彼がいたのに。どうしたのかしら。ああ、でももう考えるのもきついわ…

 「こいつかい?・・・こりゃひでえな。中も外も全部やりなおしだぜ。全部はがして全部ばらばらにしなきゃな。骨のおれるこった。まあ、193台しかなくて、全部オリジナルで欠品なしだからこいつも幸運だな。じゃなきゃ誰がこんなのやるんだ?もう今日は取りかかんのはヤだぜ。くそったれアルヴィスをやったばっかしだ。来週からにすんか。今日はもうビールだ、ビール。アルヴィスのせいでしばらくジョジー爺さんのパブに行ってねえからな。ああ、こりゃ疲れんぜ」

 汚いツナギを着た男が二人、私を台車に乗せた。身体中が痛い。私は思わず叫んでいた。
 「やめて!私をどうするの!?動かさないで。痛いの!私をほっておいてちょうだい!」
 台車に乗せられた私は納屋の中に連れていかれた。納屋の中には見るからに恐ろしい道具が揃っていた。今まで行った事のある車屋とはずいぶん違っていた。大きなジャッキを私の裏にあてがい、私を持ち上げた。身体がねじれていく。痛い!四輪全部が下がって、恐ろしいきしみ音が聞こえる。気が遠くなっていく。お願い、どうかわたしをほっておいてください…

 「いやぁ、本当にぼろぼろだな。再生できんのか?でも、まあ、先週のアルヴィスや、ほら、いつだったっけ、あの…LM…」
 「ああ、あのアストンですか?あれは大変でしたよね」
 「ああ、全く、あいつはひどかったな。あんないくらでもいい、再生してくれっていう金持ちがいなきゃ俺でもやらないぜ」
 「あの車は、グッドウッドで優勝したそうですよ、クリスさん。さすがです」
 「ああ、ガバーディルさんがわざわざ礼を言いに来てくれたな。ボーナスももらったよ」
 「でもクリスさん、どうしてこの541を再生するんです?別にリクエストがあるわけじゃないんでしょ?」
 「うん…あのな、実はこの541は俺の親父の憧れの車だったんだよ」
 「で、いつかきれいにして親父に乗ってもらおうと思ってたんだけどよ、親父はこいつを引っ張ってきてすぐに死んじまったんだ。なんかこう、がっかりしちまってな、ほったらかしにしてたんだけどな、いっつも気になってたのよ。足の裏についたパン屑さ。取んなきゃ気になってしょうがないし、取ったって何の役にも立たねえ。しばらく何の予定もねえからよ、やってみようって気になったのさ」
 「そうだったんですか。僕はこの車初めてだし、クリスさんがいつもやってる大戦前の車じゃないし、どうしてかなと思っていたんですよ」
 「まっ、そういうことだ。アンディ、手伝ってくれよ」
 「イエッス・サー!まかしといてください」
 「それじゃ、こいつをばらしていこうか。おっと、その前にのどを潤しとかねえとな」
 工場の隅に置いてある木箱から取り出したフラーズを取り出し、栓を抜くと一気に飲み干した。大きなげっぷを一つ響かせ、ドアの取り外しに取り掛かった。
 うーん、こいつはひでえゆがみ方だな。ドアはやわらかいアルミだから仕方ねえか。両方だめだな。叩き出すか。ボンネットは使えるが、サイドは両方だめだな。ジョンのとこに確かあったな。あいつンとこにゃ動かねえ541が二台だっけ?あったぞ。やっぱ戦後の車はいろいろ細かいもんがついてるな。ああ、中は全部さびてんぜ。ちょっと気合い入れなきゃなんねえな。でも意外と全部外しやすいな。このブレーキは全部だめだな。四個取っといてよかったぜ。
 「アンディ、お前もうエンジン降してんのか?」
 「ああ、クリスさん、意外と楽ですよ。ボンネット外せばもろ出しだし、ラヂエターは使いもんになんないだろうから、ちょっと乱暴に外しましたよ。ミッションも一緒に降ろしてますが、重たいですね」
 「ああ、このオースチンエンジンはでかいからな。ラヂエターは使えんだろう。そこらへんの何かが使えるんじゃないか。だめでもジョンの奴んとこにゃあんだろう。シートや内貼りも全部やり替えだから、俺も荒っぽくやってるぜ。先は長いからな。気楽にやろうぜ」

 ああ、私をバラバラにしている…でもこの人たちは決してひどくしてない。私が感じないところは乱暴だけど、痛いところは優しく扱ってくれるわ。
 えっ、私をきれいにしてくれるの?本当なのかしら?でも信じられないわ。今まで私をほったらかしにしていたのに…
 ああ、少し私は眠くなってきたわ…どうせ私にはどうすることも出来ないから、眠っていた方がいいわね。

 ボディはシャーシーと完全に分離され、横に置かれていた。シャーシーそのものには修正機にかけなければならないようなひどいゆがみはない。アンディは小さくいいぞとつぶやいた。細かい部品の汚れ落としと再メッキを行い、ボデイの使える部分にはサンドペーパーをかけた(といっても、ほぼ全範囲だったが)。
 クリスはエンジンをボルト一つに至るまでばらし、錆を取り、サンドブラスターなどで磨く。エンジンそのものは戦前のものと大差ない。クリスは、無駄のない動きで一つ一つの工程を進めていく。錆のため触っただけでもぼろぼろと崩れるところもあり、クリスは継ぎはぎをしたり、新しく同じようなパーツを作っていった。

 ドアは、結局二枚ともジョンのところから調達された。それにしても、細かい修正が必要ではあったが。ヒンジの部分が微妙にずれていた。ほとんど手造りのような車だから仕方ない。クリスはヒンジを取り外し、補強しながら溶接した。このように細かな修正、再生が必要であった。

 私が少しづつ作られていく…不思議だわ、他の車から持ってきた部分も、私に取り付けられるとまるでずっと前から私の一部分だったように感じるの。クリスとアンディは安心できる人間だわ。痛くないの。優しく扱ってくれるわ。それに、私を決して粗末に扱わない。そりゃ、女王様の様にとは言わないけど、でもちゃんとレディとして扱ってくれてるの。私はそう感じる。
 また最近、少し夢を見るようになったわ。ステファンはあまり出てこないけど、名前のわからない東洋人はいつも出てくるの。きれいになった私の周りを歩きながらもうすっかり感じ入っちゃってるの。驚き過ぎて声が出ないのね。ある日は、私のドアを開けて乗り込もうとするのよ。でもまだ乗れないの。何故なのかしら?
 ステファンと一緒の誰かわからない人もいるわ。ちょっとクリスに似てるの。でも、もっと小柄でやせてるの。にこにこしながら私を見てるわ。誰なのかしら?
最近見ている夢の意味はわからない。わからない夢だけど、でも、決して怖い夢じゃないのよ。嫌な夢は見ないわ。もう全然。それだけでもいいわ。身体がきりきりと痛んだりしないもの。ああ、また眠くなってきた。いつも寝てるわ。今度目を覚ました時、本当に素敵なレディになれてればいいのに…

 「えーっ、このミッションの面倒なことといったらないぜ。全部張り付いていやがる。はがさなきゃなんねえのかよ、まったく。ああ、俺はいつもつくづくこんな仕事にゃ向いてねえと思うんだけど、これしか出来ねえもんな。因果なこった。親父みてえな農夫だけは嫌だと思ったから、この仕事始めたんだけど…もうひっ返せねえな。ああ、やっと剥がれた。これを磨くのか。磨くのは好きだぜ。きれいになってくんのがなんだか嬉しいんだ。待ってろよ、ツルツルピカピカにしてやんからな」
 「アンディ、サンドのスイッチを入れな」
 「イェッサー。シートの革ももう少しですよ。黒にちょっとクリーム色のステッチを入れましたよ」
 「おい、ちょっと待てよ。なんでクリーム色のステッチなんだ?」
 「だって、こいつのボディはクリーム色に塗るんでしょ?」
 「えっ、俺はシルバーにしようかと思ってたんだけどな」
 「ああ、だめだめ、クリスさん。絶対にクリーム色がいいですよ。少し落ち着いた色目で。そしてルーフは臙脂(エンジ)」
 「それじゃあ、来た時の色じゃねえか」
 「そうですよ、その組み合わせが一番ですよ」
 「勝手に決めやがって。まあ、それもいいけどよ」
 「じゃあ決まりですね」
 「おい、このサンドが終わったら昼にしねえか?」
 「いいですね。女房の作ってくれた”BENTOU”が待ってますよ」
 「なんだ、その”BENTOU”ってのは?」
 「今はやってんですよ。どうも日本が発祥らしいんですけど、小さな箱にいろんなおかずなんかを入れて持ってくるんです。もう揚げた魚とポテトだけなんか食べれたもんじゃありませんよ」
 「そいつぁ悪かったな。俺のはそれだぜ。そういや日本からなんかメールが来てたな。俺はコンピューターの扱いがわかんねえから、お前、後で見といてくれるか?」
 「イエッサー」

 “Dear British Green Cars
I male for you from Japan. I heard about you from my England agent, member of Jensen Owners’ Club. Long time, I was looking for Jensen541. So,I want make sure, you think you can sold 541 for me. Please sold to me.
Best regards,  Hiroaki Ito 

 「クリスさん、メールを読みましたよ」
 「で、なんだって?」
 「いや、それがひどい英語で、うちん坊主でももうちょっとましなこと書きますけどねぇ」
 「で、何なんだよ、用は」
 「どうもここに541があるって聞いたらしくって、それを売ってくれって言ってきてるみたいなんです。まあ、なんていうか、ひどい」
 「いったい誰がそんなことをそいつに言ったんだ?」
 「ジェンセンオーナーズクラブの誰からしいですけど」
 「まあほっとけ。そんな日本人なんかに売りたくねえわ。アンディ、お前日本人を見たことあるか?」
 「いや、テレビでしか見たことないですけど。みんなメガネをかけてるんでしょ? 女の子はかわいかったですよ。”BENTOU”を紹介してた雑誌に載ってましたが」
 「おやじは大戦で日本人を見たんじゃねえかな? なんか嫌ってたような気がするけど。どうせこいつは売らねえんだから関係ねえな。さてと、ちょっと昼寝してからやるか」
 「いいですね。そうしましょう」

 私は自分の中に少しだけ力が戻ってきているのを感じる。身体の芯がしっかりとしてきた。セミモノコック構造、ペリメーター型フレームのゆがみがなおり、防錆塗料が塗られ、細かく溶接しなおされている。今や黒く、作りたての様になっている。少し長く考えることが出来るようになった。あんなに眠かったのに。
 クリスとアンディの仕事は見ていて楽しい。大きな熊の様なクリスと、背が高く、細いアンディがきびきびと動いている。それにしてもここはなんて乱雑なところなの? もう少し片づければいいのに。あんなに恐ろしく見えた機械や道具も、今ではちっとも怖くないわ。この子たちが私をきれいにしてくれるってことが、はっきりとわかっているから。理解は出来ないけど、この道具たちも話している。使われる時は息を殺してるけど、うまく出来た時のなんてうるさいこと!一生懸命私にも話してる様なんだけど、ちっとも意味がわからないわ。でも、ありがとう、道具さんたち。これからもよろしくね。

 「だいぶ出来上がったな、アンディ。お前のやってるダッシュボード周りはどうだい?」
 「ちょっと凝っちゃって、時間がかかりましたが、順調です。グローブボックスの蓋にプライヤーウッドをおごりました。どうです、いいでしょ?」
 「おお、こりゃいいぜ」
 「キャブはどうですか?」
 「最初、ウエーバーをつけようと思ったんだけど、この541にはやっぱりちょっとおとなしいSUの方が合ってるかなと思ってな。SUは相性は言うまでもねえ。それよりミッションだぜ、問題は。どうもいまいちジョンのところのと組み合わせが良くねえ。で、元のを苦労してきれいにしたらぴったっと合いやがった。まあ、そんなもんだけどな」
 「そうですね」
 「よし、最後にエンジンかけて見るぜ。良かったら今日中にシャーシーに乗っけちまおうぜ」
 「イエッサー」
 エンジンのわきに取り付けたプッシュボタンを押すと、すぐにエンジンは目覚め、規則正しく動き始めた。スロットルバルブを動かしてフリッピングさせる。吹け上がりにわずかな息継ぎはない。滑らかである。
 「キャブもいいじゃないですか。もうこれ以上の調整は必要ないんじゃ…」
 「いや、ちょっとな…ちょっとだけ気になる音がかすかにするから。もう少しだけどな」
 クリスはすぐにキャブをはずしてフロートを見始めた。彼は、この頃老眼が出始めている。
 「僕が見ましょうか?」
 「いいんだよ。おまえはそっちのことやってろ」
 「イエッサー」

 私の心臓は、今までにないくらい、いえ、もうきっと忘れていたのね、力強く動いた。ほんの短い間だけど、近頃エンジンをかけてくれる。まだ身体中に力がみなぎる感じはしないけど、だんだんと感覚が戻ってきているのを感じるわ。ありがとう、クリス、アンディ。早く私を再生させて!私は風を感じたいの。感じたくてたまらないわ。

 「クリスさん、起きて下さい。どうしたんですか、こんなところで寝ちゃって。起きて下さいよ」
 「おお、アンディか・・・どうした?」
「どうしたもこうしたも、あなたがこんな床の上に眠っていたんですよ。フラーズの飲み過ぎでしょう。大丈夫ですか?」
 「床の上?いや、そんなはずはないんだが…」
 「一体どうしたんですか?」
 「いや、ゆうべな…」

 俺が細かいやつを磨いて、あのモールだよ、そろそろ帰ろうかと思ってたら、工場の方で話し声がするんだ。いったい今頃何なんだ、誰もいないはずだがと思って見に行ったんだ。そしたら、なんか知らない奴がいて、541を見てるんだ。あんた誰なんだい?と聞いても返事しないんだ。ふざけた奴だなと思って近づくと、ほら、そこのソファに死んだ親父が座ってんだよ。俺はもうびっくりしちまってよ、肝がつぶれたぜ。でも不思議と怖かなかったな。で、一体何の用だって聞いたら・・・
 「クリス坊、久し振りだな。元気でやってたか?このステファンさんがな、お前が再生してる541を見たいっていったもんだから、俺が案内したのよ」
 「いや、でも、親父…」
 「このステファンさんはな、この541の最初の持ち主だったのよ。で、心配になって見に来たんだ」
 「心配だなんてとんでもありません。初めまして、クリスさん。あなたの仕事は素晴らしい。本当に私は心から感服しました」
 「いえ、とんでもありません、あのう、」
 「ステファンです。あなたにお目にかかれて本当に光栄です」
 「お前、こいつを最初は俺にくれるつもりだったんだってな」
 「親父、どうしてそれを?」
 「ステファンさんから聞いたんだよ。おまえがそんなことを考えていたとはな。あんなに俺の言う事なんかちっとも聞かなかったお前がよ、クリス坊」
 「私は偶然わかったんです。でも親父さんがお亡くなりになって、どうなるんだろうと心配してました。でもこんなにきれいになって、本当に安心しました。でも、御苦労なさったでしょう?」
 「はあ、いやそれは…それより親父、一体何で出てこれるんだよ?死んでんだろ?」
 「そりゃそうさ。ちゃんと死んでるぞ。なにをいまさら言ってるんだ?見たろ、俺が死んでるとこ」
 「そりゃ見たさ。最後の言葉覚えてるか?俺に向かってなんだお前かって言ったぞ。そしてため息ついて死んだんじゃねえか」
 「あの時は母さんとの夢を見てたんだよ。そしたら真っ赤な顔したお前がいるじゃねえか。あ~あ、と思ったら一瞬真っ暗になって、すぐにまた母さんに会えたんだ。母さんは若かったころのかわいい母さんのままでな」
 「母さん?母さんは元気か?」
 「元気というのとはちょっと違うが、まあ、元気だ」
 「母さんは何でここにいないんだ?」
 「そんなのわかるわけないじゃねえか。大体、お前が俺のこと見えてるのだって今までなかったんだからな。今どうして話せるのかもわからねえ」
 「まあまあ、偉大なる神の御心ゆえにお会い出来てるんだと思いますよ」
 「そういうこった」
 俺は何が何だかすっかりわかんなくなってオヤジの隣に座りこんじまった。それなのにあのクソ親父はビールでも飲んで頭を冷やせなんて言いやがる。
ステファンさんはずっとにこにこしててな、穏やかな人だった。ボディを乗せたばかりの541をそりゃ愛おしそうに撫ぜてるんだ。なんか541も喜んでるような感じでな、ますます俺はわかんなくなっちまった。フラーズを1本明けたら、なんか俺もまあいいかって言う気持ちになってな、ステファンさんにこの車のことをいろいろ聞いたりしたんだ。で、親父が飯でも食おうやって言うと、いつの間にか部屋が広がっててな、その壁んとこだ。テーブルにミートパイとプディングがあってな、母さんの味だった。母さんは最後までいなかったけどな。ミートパイ食べてたら、昔親父に怒られた後食わしてくれたのを思い出してな、俺は思わず泣けちゃったよ。同じ味だったんだよ。そんな俺を見てあのクソ親父がけらけら笑うんだぜ。信じられるか?死んでも何も変わってねえな。
 思いっきり鼻かんで、ミートパイは全部おれが食べた。なんて言うか、俺はすっかり心が満たされてな、お茶を飲んでると・・・

 ・・・

 ・・・

 ・・・

 はいは~い!ここからいつもの”現実世界”ですよぉー。まったくもって、その続きが楽しみになってまいりました。ワタシ担当の本文よりも面白いでしょ。今までコメント欄を読みとばしていた方々も、コレを機会にちょっとだけ御覧になってみては如何でしょうか。

 それじゃー、また明日!

 2013年3月4日以前の過去記事は、「マセラティでイッてみよう!:Part2」で。

 このブログを読んで、マセラティを初めとするイタリア旧車の世界に足を踏み入れたくなってしまったアナタ(あんまりいない様な気がするケド:笑)は、マイクロ・デポ株式会社の公式ホームページ「マセラティに乗りませんか・・・」の方ものぞいて見てくださいね。さらにディープなネタ、やってます。

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コメント

いや~、大作ですね。繋げるとちゃんとした物語になってるのが凄い。
自動車は単なる移動や荷物運びの道具などでは無く、生活に密着した社会を形成する文化なのですね。
クルマには敬意を持って接しなければなりませぬ・・・あらためてそう実感出来る教養深い物語だと思います。。。

・・・Silvertrident Maskは何処へ?

”文豪”りゅたろう先生のなんといっても凄いところは、本文の内容もさることながら
2月19日付コメント欄の最後を見ると、最終章が3月4日に”50分”で一気書きされていること。
これには仰天です。如何に集中力がすごいか。

そして本物語に(前フリ)コメントがあったとは。
それに気づくたこちゃんもすごいです。
2人は最強のペアです。

「なあ、クリス坊、こいつが出来上がったらお前どうすんだ?」
「まだ考えてねえ」
「その事なんだがな、俺もステファンさんもこいつを譲って欲しい相手がいるのさ」
「えっ、それってどういう意味なんだよ。死んだ奴には売れないぜ」
「バカ野郎、そんなこたあわかってるさ。そうじゃなくて、今生きてるある人に、俺もステファンさんもこいつを譲って欲しいって思ってんのさ」
「ちょっと待ってくれよ、親父。どういう事なんだ?そいつに会ったことあんのか?」
「いや。俺もステファンさんもない」
「えっ?」
「ないけど、俺たちにはわかるんだ。そいつがふさわしい奴だってな」
「どんな人なんだ?」
「いや、実はよくわからない。わからないが、たった一人、そういう人がいるってことはわかってる。きっともうじきお前の前に現れるんじゃないかな?」
「本当かよ?」
「実はそれもよくわからん」
「でもね、クリスさん、あなたにはきっとその人がわかります。誰がこの541を見に来ようと、あなたには見分けがちゃんとつくはずです」
ステファンさんは、541に優しく寄り添い、滑らかなルーフをなぜていた。
「一体誰がそんなことをあなたや親父に伝えたんですか?」
「541さ」
「はあ…、本当にわかるんですか?」
「そうらしいね」
まったくはっきりしない、すっきりしない話だ。おれは、努めてこの事は現実じゃない、夢を見てるんだと思おうとした。じゃなきゃおかしくなりそうだった。死んだはずの親父は全く以前の親父そのもので、手を取ったり、触られたりしても全くリアルな感触なんだ。ステファンさんにしても、生きてる実体としか思えない。ミートパイは紛れもなく母さんの味だったし、誰が入れたかはわかんないけど、食後のお茶は思わずお代わりをしたほどさ。
でもな、リアルすぎてリアルじゃないっていうか…なんか現実感がなかったな。そして…俺は親父にちゃんと言いたかったこと、何にも言えなかったんだ。なんせ、最後がああだったろう、俺は思わずクソ親父って言っちまったんだよ。でもよ、本当は、いろんなこと、ありがとうって言いたかったんだ。ゆっくりと休んでくれよって言いたかったんだ。だから、ゆうべも心の中で俺はありがとうっていつ言おう、いつ言おうってずっと思ってたんだ。言えなかったよ、最後まで。
俺は腹一杯になってすっかり眠くなっちまってな、ソファに横になった。するとステファンさんと親父が傍に来て、にこにこ笑っておれの方を見てるんだ。親父は、
「じゃあな、クリス坊。お前のことは全部わかってるさ。ありがとよ。また会おうぜ」
「あなたにお会いできてよかったです、クリスさん。出来上がりを楽しみに待ってますよ」
俺もなんか言いたかったけど、でも何だかすぐに目を開けてられなくなっちまったのさ。目を閉じる寸前、541がにっこりと笑ってるような、いやいや、それこそ見間違いだな。そしてお前に起こされたのさ。
「そりゃあいい夢を見ましたね」
「なんだ、お前信じてねえのか?」
「当たり前でしょ。誰がそんなこと信じるんですか」
「まあ、そうだな。この部屋も変わってねえし。そうか、やっぱありゃ夢か」
「そうですよ」
「夢でもよかったぜ。親父にもう一度会えたからな、あのクソ親父め」

それから数か月して"Classic & Sports Car Magazine"に写真とともに小さく記事が載った。
’ヨークシャー郊外の、戦前モデルのレストアで有名なBritish Green Carsのクリスバーネットが、1959年製の541Rを再生しました。彼としては全く珍しい選択でしたが、仕上がりは惚れ惚れとするような美しさです。すべてオリジナルパーツ、あるいはクリスが制作したパーツを用いてレストアされ、当時以上のスペックだそうです。このニュースは、JENSEN OWNERS' CLUBのクラブマガジンを通じてクラブメンバーに知らされ、わざわざ遠くから見に来る人が絶えないということです。今のところこの541Rを手に入れることの出来た幸運な紳士はいません。というのも、クリスは誰にも売ろうとしないのです…’

その後はクリスの許に世界中からオファーが来た。見に来る購入希望者も、以前にもまして多くなった。しかしクリスは決して首を縦に振ろうとはしなかった。

私は本当のレディにしてもらったわ。塗装もメッキも、革も全て生まれたてのようにきれいになったわ。みんな私を見て溜息をもらすの。なんて気高い車なんだって言ってくれるわ。恥ずかしいくらいよ。中に座ってさらにみんなは驚くの。ダッシュやシートは、アンディが精魂込めて作ってくれたわ。いえ、生まれ変わらせてくれたわ。ステッチの色は悩みの種だったの。でも、彼が奥様に相談して、ステッチの色はルーフと同じえんじ色になったわ。うん、こっちのほうが絶対にいい。ありがとう、アンディ。エンジンは最高よ。私が言うのもちょっと恥ずかしいんですけど、でもはっきりと言うわ。何よりも最高!吹け上がり、音、ステファンさんにはちょっと申し訳ないけど、きっとあの頃よりいいわ。バルブもきっちりと揃ってるの。ミッションにはあやふやなところは髪の毛ほどもないわ。
そして…私は待ってるの。あの人を。きっと私のパートナーだわ。名前もわからない。ジャケットの内側に”H.I."って刺繍があった。あれは彼のイニシャルかしら?でも私はあせってない。だって、きっと来る、私の許に必ずいらっしゃるってわかるから。私はここにいるわ。早く見つけてください。ここにいるわ。

おはようございます。

りゅたろうせんせい、すごい…
さすがは先生ですね。
めざせ! 芥川賞!!

「バルケッタの件」すいません。
ここんとこまたずっと、オープンエア病なんですが…
増車は無理なんで、真剣に考え中です(^^ゞ

 とうとう、コメント欄ノベルが、ブログ本文に掲載されるということになりました。りゅたろうさまの中ではもう物語の結末も用意されていそうですね。そして、物語同様にリアルに HIなる東洋人は541を手にいれるのでしょう。。。

いやー大変なことになってる。実は我がパソコン、ココログ表示崩れが発生していて毎日「あれ?」な状態でした。
広告はカーグラだったのですね、カーマガだとばかり思っていました。

「もっと小柄でやせていて、にこにこしながら私を見ている人」が、タコちゃんさんでなくてクリスの親父だということが判明して安心しました。

親父&おふくろでなくて母さんなところがいいなあ、とも思います。

あとはこの英国編が、既存の日本編のどのあたりに軟着陸するのか(しないのか)、固唾をのんてみつめたいところです。

またまた一気書き炸裂!!
まさに”レジェンド”です。

一体俺はどうしちまったんだ?
541は出来上がった。我ながらいい出来だ。欲しいって奴もたくさん来てる。中には信じられない金額を言ってくる奴もいる。ガバーデイルさんはアストンと同じだけ出そうと言ってきた。いくらなんでもそんなことは出来ねえから、丁重にお断りしたが…
なんで俺は売りたくねえんだ?
どうしても売る気にならねえ。なんかが邪魔してる気がする。541?まさかな。でも、俺は買い手が来るたび、541に心の中で話しかけている。おい、こいつはどうだ?行くか?って。認めたかあねえが、はっきりわかるんだよ、NOって。
これって一体何なんだ?
ラゴンダに取り掛かってんのに、ちっとも気持ちが乗らねえ。しばらく休んだ方がいいのか?アンディも休みましょうって言ってくれてる…まったく、こんなことは初めてだぜ。

「クリスさん、親方!」
「なんだよ?」
「また日本からメールが来てますよ」
「それが一体どうしたってんだ?前は…どれくらい前だっけ?」
「え~と、まあ数か月前です」
「ああ、そうか。それでなんだって?」
「え~と…」
Dear British Green Cars
This is Mr. ITO writing to you for the second time, hoping my English had improved since.
Resent news given from “JENSEN Owners' club” tells me your restoration work undergoing to the 541R had nearly accomplished.
I can not wait to see the job you had made, thus I’m planning to visit your workshop soon.
Please acknowledge my wish and hope to have your confirmation by return at your convenience.
My best regards.

Hiroaki Ito

「えっと、何かい、じゃあここまで来るってんだな?」
「そうらしいですよ」
「そりゃ遠い所から御苦労なこった。でも、無駄足になるだけだけどな」
「クリスさんは、全く売る気はないんですか?」
「今のところはな。そいつが日本から来ようが、地の果てから来ようが、別に売る気はないな。というか、売る気持ちにならねえんだよ。」
「どうしてですか?」
「そんなこたぁわかんねえよ。アンディ、お前は俺に売ってほしいのか?」
「売る、売らないは親方の勝手ですが、そいつの決着をつけてもらわないと、ラゴンダが進まないなぁと思いましたが…」
「うるさい、アンディ、俺はちゃんとやるさ」

エンジンのヘッドを下したが、その後は全く作業が進まなかった。アンディは、黙って内装の再生に取り掛かっていた。そのうち、クリスも言い訳めいたことすら言わなくなった。
工房に顔を出すことも減り、クリスは自分を持て余していた。家にいてもすることはないので、亡くなって以来そのままになっていた父親の遺品の整理を少しづつ始めた。実は、父親の部屋で何度か父親に話しかけたり、ついには助けを求めたりしたのだが、あれ以来父親が出現してくれることはなかった。
服などはもう用はないので捨てるため袋に詰めたが、困ったのは膨大なノートであった。多くは作物などの生育などに関するノートだったが、クリスは自分の父親がこんなにまめに書き記していたことなど知らなかった。非常に驚いたが、こんな事すら知らなかったのかと、ため息をついた。簡単に捨てられなくなった。
ある日、積み重ねられたノートの間に、革表紙の手帳があることに気付いた。バリバリにページがくっついていたが、慎重にはがしてみると、大戦中の父親の若き日々が細かにつづられていた。粗野で粗暴で、大麦を作ることしか興味がないと思っていた父親が、実は非常に細やかな青年だったことに気付かされた。
まかないの女性が作る料理を食べながら、その手帳を少しづつ読んでいった。たいていは、日本軍がいかに強力か、また、この戦争がいかに不条理かという事を書いていたが、最後の方に、当時父親が従軍していたオーストラリア戦線のことが書いてあった。

‘9月28日
リマウ作戦は10月10日決行と決まった。この作戦が成功すれば、オーストラリア、ニュージーランドにおける日本軍は、ほぼ無力となるだろう。このばかばかしい戦争も終わりに近づいてくれる・・・・

10月9日
明日は決行の日だ。リマウの日だ。憎い日本兵に死を!! 日本軍に滅びのうたを!!


12月10日
生き残ったのは俺一人。みんな死んでいった。ああ、なんて皮肉なんだ。この俺は日本兵に助けられた…
シンガポール湾に侵入した俺たちは、日本軍に見つかった。銃撃戦で俺は腕と胸に弾をくらって海に落ちた。そこから意識がなくなったが、俺は湾内のどこかに打ち上げられた。そこでも日本兵に見つかった。俺は縛りあげられ、無理やり歩かされた。日本軍の基地に連行するためだ。
驚いたことに、この日本兵は英語が喋れ、自分のことを農学者だと言った。名前はケイタロウ・イトウ。こっちが大麦を作っている農夫だとわかると、うれしそうな顔になり、いろいろなことを質問してきた。ヨーロッパの大麦の生育についてだとか、収穫後はまたすぐに種を撒くのかなんかについてだ。ケイタロウは、日本とヨーロッパの違いに驚いていた。
何日もジャングルを歩き、共に食い、共に眠ると、俺たちには友情のようなものが芽生えてきた。俺は、気を許したことはなかったが、いいやつだという事はわかった。
ある日、俺が寝ていると、ケイタロウがあわてて隠れろと言った。俺はそっと転がり、茂みの中に隠れた。誰かが近づく音がして、ケイタロウが緊張した声で何かを話していた。日本兵が来たことに間違いなかった。俺はすっかり諦めて、捕まることを覚悟した。でも、俺は捕まらなかった。ケイタロウが俺のことを隠したのだった。辺りが静かになると、俺が隠れている茂みにケイタロウがやって来た。もうこうなった以上、ケイタロウは俺を基地に連れて行けないし、一緒にいることも出来ないと告げた。俺は最悪のことを考えて目をつぶった。するとケイタロウはナイフで俺の縄を切った。そして、ケイタロウは俺に、少しだったが農業や英国のことを話せてよかった、もう少し話していたかったがそうもいかない。基地は東の方にある。だから西の方に行けと言った。俺は戸惑っていたし、突然得た自由に驚いていた。ケイタロウは笑いながら、こんな時代じゃなかったら、俺たちはきっと友になれただろう、もし大戦が終わって、再び会えることが出来たら、二人で乾杯しようと言ってくれた。
俺はジャングルをさらにさまよい、友軍の駐屯地にたどりついた。そこで俺は仲間たちがみんな死んだか捕まったことを聞いた。野戦病院で何日も熱を出し、俺は生死の淵をさまよった。ケイタロウの後ろ姿を夢に見たこともあった。故郷の草原も夢に見た。やっと死の淵を脱した俺は、イギリスに送還されることになり、昨日ブリスベンに戻ってきた。明後日、イギリスに帰る。

そのあとは余り記述はなかったが、最後の方に、ケイタロウ・イトウ、45年戦死とだけ書いてあった。
クリスは、表紙をきれいに拭いて、父の使っていたデスクの引き出しにその手帳をしまった。

おぉー!こんな方向で運命の糸が絡んでいたんですね。541が巡り合わすわけだ。。。。

私の中をゆるやかに時が過ぎていく。
私をたくさんの人が見に来てくれたけど、でもいなかった。私が待っている人は別の人だわ。私にはわかる。でもどんな人?あの東洋人?私はこのままここにいることになっても構わないわ。クリスさんやアンディさんも時々私を外に連れ出してくれる。風を感じさせてくれる。緑が眩しい季節にアスファルトを思いっきり走るって、なんて気持ちのいいことなの。時々ジーゼルカートとも競争するのよ。あの人たちの言葉は訛りが強くて余り分からないんだけど、でもとても気のいいジーゼルカーだっていう事はわかるわ。「よう、お嬢さん、きれいだね。ご機嫌いかがかな?」なんて言うのよ。私はちょっとツンとするけど、すぐに「気持ちいい日ね!」って返すの。するとジーゼルカーは、大きく汽笛を鳴らしてくれるのよ。
気になるのは、クリスさんは余りお仕事が進んでいなさそうだって事。アンディさんもなんだか元気がない。この間まで私がいた作業台に乗せられたラゴンダなんか不満ばっかり言ってるわ。大きなレースだかショウに出るはずだったのに、このままでは間に合わないって言ってるわ。裏庭で動かないままほって置かれた事なんかないんでしょう。辛抱なさい。私は、長い時を屋根のない裏庭で過ごしたわ。俺は貴重な車だから偉いんだみたいに言ってるけど、お生憎さま、私だって兄弟は193台しかいないわ。それが50人だろうが10人だろうがなんだって言うの?関係ないわ。大切なのは、所有してくれる人がどれだけ愛しんでくれるかよ。
クリスさんが来たわ。あらあら、今日はいつにも増して元気がないわ。どうしたのかしら?

さっき、アンディの奴が言ってきた。前からメールをくれていた日本人がエセックスの駅に着いたって電話があったらしい。会う気もあんまりねえんだが、JENSEN Owners’ clubの会長からの手紙を持ってるとなれば会わねえわけにはいかねえな。ああ、日本人なんかに会うのは初めてだな。まさか頭の真ん中を剃って後ろの毛を束ねてるってこたあねえだろうが。日本人なんかに541が分かんのか?あいつらが作ってる車は、トヨタ、ダットサン、マヅダ…どれも、な。
おお、今日はいつもより調子がいいな。吹け上がりが軽いぞ。いい音してるぞ。今日はどうしたっていうんだ?すごくいいな。戦後の車なんか余り興味はなかったが、こうしてみるとなかなかいいじゃないか。このまま大陸横断してもいいくらいだ。それにしてもなんて気持ちのいい日だ。6月にこういう日はめったにないぜ。よっしゃ、もうひと走りするか。

「タツヒコ、もうすぐだな」
「そうだな。それにしても田舎としか言いようがないな。行けどもいけども草原ばっかりだな。こんなところに本当にあるのか?」
「ちゃんと運転手はわかったと言ったんだろ?じゃあ、間違いないよ」
「まあ、そうだけど。ところで、ヒロは何でその車がいいんだ?そいつを聞いてなかったな。クラシックカーなら、こんなところに来なくても日本にもいろいろあるだろ?」
「いやな、前にも言ったろ?俺も何でこの車に執着してしまうんだか、よくわからん。わからんが、これじゃないとだめだって気がするんだ。541を知ったのは去年、なんかの雑誌を見てた時なんだけど、そこからJENSENのホームページで見て、何か感じたんだな。そのうち夢に出てくるようになったんだ。夢だぜ、いくらなんでも変だろ?実車を一度も見たことねえのに。おまけに、夢におじいちゃんも出てくんだよ。何だかよくわからんが、ついふらふらっとオーナーズクラブにはいっちまってな…」
「まったく話の脈絡が合ってないんですけど」
「うん、わかってるけどさあ、よくわからん。とにかく、541って車が気になってきてな。オーナーズクラブのフォーラムに売り物とかあったら教えて下さいって掲示したら、この車のことについてインフォメーションがあってさ…」
「それでこのイギリスのド田舎を走ってるわけだ」
「俺の英語はとても使えたもんじゃないから、タツヒコについて来てもらったんだけど、良かったよ、ありがとよ。会長の手紙も何が書いてんだか解読するのにすごい時間かかったからなぁ」
「でも車屋はいい返事じゃなかったんだろ?」
「来るならどうぞ、でも無駄足になりますよって返事だった」
「お前もものずきだなぁ」
「まあ、イギリスって行ったことなかったしな、一度は行ってみたいって思ってな。とにかく、この541が気になってな。送ってもらった写真を見て惚れちまった。すごいきれいじゃないか。見るだけでもいいって思ったんだよ。それにしても昨日の食事は不味かったなあ」
「そりゃお前がケチるからだよ。ちゃんとしたお金出せばさすがに美味いもんが食べれるぜ」
「世界共通か」
「そういう事。おっ、そろそろ着くんじゃないか。なんかあるぜ」
「おお、きっとここだ。ほら、旧い車ばっかだ。それにしても、なんちゅうか、イギリスっぽいなあ」
「なかなか雰囲気あるじゃないか」
「ああ、ついに御対面か。う~、ドキドキしてきた」

読んでいる方もドキドキしてきました。

いよいよ佳境に入ってきたか!!頼むよ!最後は541の挿絵入りで!アニミスムって日本人好きですよね。イギリス人もそういうのあるんかな?機関車トーマスとかあるしね。

私がBritish Green Carsに戻った時、ちょうどタクシーから二人の東洋人がおりて来るところだったわ。一人は背の高い見たことがない人、もう一人まさに夢に出てきていた人だった。実際に初めて見る人なのに、何故かちょっと懐かしい感じのする人だった。その人は、私を見つけて目を見開き、大きく口をあけて何か叫んでいたわ。何だかその人が子供のように見えて、私は思わずクスッて笑ってしまったの。
そして私は爆発したの。心の中、エンジンの中、あらゆるところで喜びが弾けていて、どうにも止まらなかったの。クリスさんはブレーキを踏んでいたけど、私は止まらず、その人のすぐそばまで行った。背の高い人もクリスさんもちょっとびっくりしていたけど、その人はちっとも驚いていなかった。ゆっくり私の前にかがんで、手を伸ばしフロントノーズに触れた。その時私には、はっきりとわかった。やっと来てくれたんだなって。ようこそ、私の許にって。

クリスは驚いていた。
541が自分が止めようと思っていたところより3、4m先に止まったことにも驚いたが、こっちを向いて何かを叫んでいるように見えた東洋人が、すぐ足もとに541が止まったことに少しも驚かず、かがみこみ、541のノーズを触れたその姿に我知らず心を打たれた自分に驚いていた。まるで一枚の絵のように、しっくりとおさまっていた。
しばらく声をかけられずにいたが、はっと気が付き、
「これは失礼いたしました。私はBritish Green Carsのクリス・バーネットです。ようこそいらっしゃいました。東京からの方ですね」
「こんにちは、クリスさん。私はタツヒコ・イシカワです。こっちがヒロアキ・イトウです。おいヒロ、ご主人のクリスさんだぞ」
背の高いイシカワはきれいな英語であいさつした。ちっちゃい方は聞こえているのかいないのか、541に静かに手を置いている。ん?イトウ?どっかで聞いたかな?
イトウはイシカワに促されると、あせったように立ち上がり、
「こんにちは。初めまして。お会い出来て光栄です。私は日本の九州から来たイトウです。今日はとても素晴らしい日です」

こいつの英語はかなりブロークンで、発音もなってない。おまけに声が小さい。おどおどしているのか?さっきの静かな佇まいとの差はなんなんだ?でも、どこか憎めない風情だな。

「さあ、中に入りませんか?遠くを旅して疲れたでしょう?まずはお茶でもいかがかな?それともスコッチでも?」
「ありがとうございます、お茶をいただきます。ヒロ、中でお茶でもって言ってるぞ。行こう」
「タツヒコ、おい、見たか、凄いぞこの車は。なんてきれいなんだ。優雅だ。写真の100倍はいいぞ。まるで俺を待ってたように感じねえか?」
「いや、全然」
「ああ、おまえにはわかんねえのか?まるで足許に駆け寄ってくるワンちゃんみたいだったろ?俺を待ってたんだよ、絶対」
「そぉか?まあいいから早く中に入れ。俺はのどが渇いたんだ」
「ほら、車ってのは出会いなんだ。第一印象で決まるんだ。ひっくり返してじっくり見るなんて全く必要ない。初めて見たその時の印象がすべてなんだ。俺はその時の判断を後悔したことなんかないぞ。この541は俺を待ってた。絶対そう言い切れる」
「分かったから早く中にはいれ!」

この日本人はごちゃごちゃ何かを言っていた。何を話してんだ?でも大体想像はつくな。541の素晴らしさに驚いているんだろう。ちっちゃい方はちょっと興奮している。日本人ってのは初めて見るけど、写真なんかで見るのと全然違うな。見た目は似てるのに、中国人とも全然違うぞ。

「おい、アンディ、541を中に入れといてくれ」
「あっ、来たんですね。お茶、淹れましょうか?」
「いや、いいよ。俺が入れる」
「イエッスサー」
イシカワは部屋の入り口近くに立っていたが、イトウは飾っている写真を興味深そうに、いや、嬉しそうに見ていた。いちいち何か言っている。
「さあ、そこのソファにお座りください。イトウさんは何を言っているのかな?」
「彼にはこの写真が全部わかるらしいですよ。これは歴代のル・マン優勝車らしいですね。特に戦前のものは全部網羅していると言っています」
「驚いた。これはイギリス人でもちゃんとわからないのに」
「彼はマニアですからね。いや、というよりも車がとても好きなんですよ」
クリスはお茶を淹れるために立ち上がり、部屋を出た。キッチンでアンディが待っていた。
「どうですか?あの日本人は?」
「一人は紳士なんだが、ちっちゃい方は、なんか…変な奴だな」
「その紳士が例のヒロアキですか?」
「いや、変な方だ」
クリスは変と言いつつ、別に嫌がっていなかった。むしろ親しみを抱き始めていた。心を込めてお茶を淹れた。

続いてますね!今日はシャマルをしさしぶりに転がしてきました。。。

いよいよご対面!この先に注目!!

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